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今週の一押し アーカイブ

2006年07月02日

今週の一押し26:""生きていることの科学"

生きていることの科学

第二章オープンリミット-点のなかの点
で語られるオープンリミットという考え方は医療にも応用可能だと思います。
講談社現代新書の一冊ですが、かなり難しいと感じられるかも知れません。
その意味で、ぼくが”誤解”をしている可能性もあります。

ついでに
ほんじょの鉛筆日和。
も紹介しておきます。
本上さんは、なんと原稿用紙を使って書いているそうです。英語が不得意とかいろんな新事実満載。

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2006年07月06日

今週の一押し 番外:"意識の探求―神経科学からのアプローチ"

意識の探求―神経科学からのアプローチ (上)
意識の探求―神経科学からのアプローチ (下)

はChristof Kock博士の

The Quest for Consciousness: A Neurobiological Approach

の翻訳です。
ぼくは以前この英語の本を読み始めて途中で挫折したという過去をもちます。
今回、清水の舞台から飛び降りる覚悟で翻訳を6000円以上も出し買いました。

これは素晴らしい本です。
内容が良いことに加えて翻訳がすばらしい。
まだ半分しか読み進めていないのですが、およそ”意識”を意識して商売をしている麻酔科医がこの本を読まずして”意識”を語るなどナンセンスでは無いかと思います。
是非買って読んでください。

2006年07月09日

今週の一押し27:"輝く日の宮"

輝く日の宮
丸谷才一氏の小説が、文庫本になりました。

”輝く日の宮"というタイトルは、源氏物語の失われたと言われている一帖の名前です。この小説のストーリーで重要な役割を果たしています。
主人公は若く(たぶん)美人の国文学者。
進行にあわせて小説内に”小説”や”物語”がうまく配置されているなど章ごとに趣向が凝らされています。

”芭蕉はなぜ東北に行ったか”に関する諸説が学会での発表というような形で語られまた学会や他の国文学者への批判も批判的に語られ文系の学会のノリもかいま見ることができます。これが結構おもしろいのですが真偽の程はぼくには不明です。

これ一冊読むと急遽勉強を始めたくなるような一冊。
3年前に定価1890円で出ていましたが文庫本は770円。
アマゾンで古本を買えば99円+送料です。
必ず楽しめると思います。

2006年07月13日

"翻訳教室"

翻訳教室
東京大学の柴田元幸先生の実際の授業(文学部の翻訳演習)を収録した本です。
なかなか楽しい本で文学部の学生でないぼくでも十分楽しめます。
授業に、村上春樹氏やJay Rubin氏などが飛び入りで参加したりしてウケを狙っているキライはありますが、為になる授業であることには変わりはないと思います。

医学部ではなかなかこのようなタイプの授業はできませんね。心臓麻酔の授業をしていていきなり”スーパードクターK”が登場してK語録を披露しても雰囲気が寒くなるだけで全く意味がないですから。
それにしてもTV局もあまりいい加減な番組を流しているとそのうち患者さんに間違った風評を流したということで訴えられる可能性もあるので気をつけた方がいいと思いますよ。

途中で全然違う話になってしまいましたが、とにかく、”翻訳教室”はよい本ですよ。
図書館で借りたのですが、返却期限をすでに二週間も過ぎています。日本はいいですよ。期限に遅れてもお金を取られるわけでないので。これがアメリカなら大変です。よく本を図書館で借りていたのですがついうっかり返却期限を過ぎると返却の時、”チン”とか音がしてしっかりお金を取られました。結局その本のpaperbackが買えるくらいとられて借りた意味が無くなることがありました。日本もそうしたらいいと思いますよ。借りたい本があってもぜんせん帰ってきませんから..
というわけでまたまた脱線してしまいました。

2006年07月18日

今週の一押し28:"「個」を見つめるダイアローグ"

「個」を見つめるダイアローグ

図書館で偶然発見。
村上龍氏と伊藤穰一氏の対談です。
合理的に社会の諸事を考える事のできる知性を持ち、自分の信じるところに従い行動するべきであるとという村上龍氏の従来の主張が、伊藤氏との対談の形式で語られるという本。
特に経済的な合理性が強調されるわけですが、医療問題でも経済的な側面を無視した精神論ではどうもできない問題が山積しているので重要だと思います。
特に目新しい考えが述べられているわけではないのですが、村上氏と伊藤氏の語り口によるのでしょうか説得力のある議論が展開されています。
読んで損はないと思います。

比較的新しい
人生における成功者の定義と条件
でもそうですが村上氏は対談がとびきりうまいと思います。
もう20年位前もトーク番組やっていましたよね。

調べたら今もテレビ東京でやっているみたいです。見てないけど。

2006年07月23日

今週の一押し29:"一瞬の夏”

一瞬の夏 (上)

日本経済新聞の土曜日の夕刊では、”文学周遊”という連載が続いています。
この前の土曜日は。沢木耕太郎
氏の”一瞬の夏”が取り上げられていました。
カシアス内藤という名のプロボクサーのルポルタージュです。
この本は、新潮文庫に入っていてー上下二冊になっていますー、ぼくは、”新潮文庫の100冊”が収録されたCD-ROMに入っていたのを米国にいるときに読んだというわけです。(ぼくが保っているCD-ROMに収録された新潮文庫のラインアップは100 books of Shincho-bunkoから見ることができます。米国にいて日本語で小説を読もうにも大正が少なかったので新潮文庫の100冊をかたっぱなしから読んでいました。これは凄く良い体験でした。)

この”一瞬の夏”はだれが読んでも興味をたもったまま最後まで読み切れるルポだと思います。”私ルポルタージュの記念碑的作品”と言われるだけあって登場する関係者とくに沢木氏自身のカシアス内藤への関わりが描かれています。というよりこれは沢木氏の精神の移ろいを描いたルポなのです。
ノンフィクションですが”結末”はどうなるんだというような興味もある、様々な教訓を学ぶという体験もする、また結局は読者自身の私事をふりかえらせるという効果をもった得意なルポになっていると思います。

文庫本の解説は柳田邦男氏が書いていたと思います。ー手元に本がないので定かでないですー
彼にも自らの体験を書きつづった壮絶なルポルタージュがあります。

犠牲(サクリファイス)―わが息子・脳死の11日

2006年08月02日

今週の一押し30:"深夜特急"

深夜特急〈1〉香港・マカオ

"深夜特急〈1〉香港・マカオ”の第三章は”賽の踊り”といタイトルで沢木氏のマカオでのサイコロ賭博の体験が語られる。この章は深夜特急のなかでもぼくの一番好きな章だ。
自分の自分が建てた理屈に賭けていくという感じがなかなかよろしい。

阿佐田 哲也の麻雀放浪記の主人公「坊や哲」がやっぱりサイコロ賭博に臨んで、勝か負けるか解らないが自分のやり方に賭けたいのだと考えるのとよく似ている。

実際の医療は賭博とは違い、科学的に裏打ちされたエビデンスに基づき行われている(ことになっている)が、やはり一種のギャンブルであるという側面がある。
20年近くも同じ世界で生きているので自分や自分に近しい人には自分の体験に基づいたアドバイスを自分の判断基準に基づいて行うことができるのだが、TVや雑誌で見聞きした情報に基づいてわざわざ遠くから来ていただいた患者さんに、ここでの手術はどうのこうのとか言えないですよね。

2006年08月06日

今週の一押し31:"身体を通して時代を読む”

身体を通して時代を読む

これも自腹で購入。
これは少し難しい本です。もう一回位読み直さないと..

2006年08月07日

読み返しました

身体を通して時代を読む

昨日の夕方電車の中で再読。
第三章”師は何も教えず、弟子は学ぶべきものを学ぶ”
など研修医の先生、大学院の学生にはぜひ読んでいただきたいと思います。

第四章”「学び」とは別人になること”で内田先生が紹介しているアインシュタインの言葉「科学者の栄光は、自分の立てた仮説が、後からやって来る、より包括的な理論の一部に妥当する理説として生き残ることだ」などホント体にしみいりますね。

とにかく買って熟読してみてください。

2006年08月21日

今週の一押し32:"養老孟司のデジタル昆虫図鑑"

養老孟司のデジタル昆虫図鑑

養老先生がご自分で収集した昆虫をscannerで取り込んだ写真で作った図鑑です。
これが彼のlife workになっているのだそうです。

一緒に平積みになっていた本がこれ
デジタルカメラで撮る海野和男昆虫写真 -wild insects-

2006年09月09日

今週の一押し35:"いつか王子駅で”

いつか王子駅で
駅の書店で買いました。
長編といってもさっと読める長さです。
堀江氏の著作の特長がよく出ている一編。
ぼくのrotation listに入れました。

2006年09月16日

今週の一押し36:"カラマーゾフの兄弟"

カラマーゾフの兄弟1

最近海外の小説の新訳がどんどん出版されるようになってきています。
”星の王子さま”、”キャッチャー・イン・ザ・ライ"や”嵐が丘”などの古典の新訳が出てきて、読んでみるとやはり新鮮に感じます。
今回、”カラマーゾフの兄弟”の新訳が出ました。ぼくは新潮文庫の原卓也氏の訳でしか読んだことは無かったのですが、新訳はやはり読みやすいです。
カラマーゾフの兄弟 上   新潮文庫 ト 1-9

カラマーゾフの兄弟や罪と罰などを読んだことのない研修医や大学院の先生がいてびっくりします。読んだ方がいいですよ、出来るだけ若いうちに。

2006年09月24日

今週の一押し37:"アンドロイドは電気羊の夢を見るか?"

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?


"The New Yorker: MIND GAMES"
を読んでいたら急に思い出しました。
ディックの本なら流れよわが涙、と警官は言ったも好きです。

2006年09月30日

今週の一押し38:"クライマーズ・ハイ"

クライマーズ・ハイ

NHKで再放送を流していましたね。今日は当直なのですが何も無かったので夕ご飯に合わせて見ました。

文庫本になり660円で買えるのだから安いものです。

2006年10月14日

今週の一押し40:Complications: A Surgeon's Notes on an Imperfect Science

少し前に紹介した(The Score (hypoxia research::blog))Dr. Atual Gawandeの文章が本にまとまっていました。
おもしろいですよ。
Complications: A Surgeon's Notes on an Imperfect Science


2006年10月22日

今週の一押し41:"脳のなかの水分子―意識が創られるとき"

脳のなかの水分子―意識が創られるとき
吸入麻酔薬の作用機序が”水分子とクラスター形成を促し結晶”を作るからだと云われてもにわかには納得できない部分もあります。
この本は、あまりに初心者向けで肝心の”意識”にかんする記載がすくなすぎます。
もうすこし勉強をしてみます。
ところで


脳の使われ方と昨日とに特異的な相関が存在せず、昨日局在が決定論的なものでないことの証明は、ファンクショナルMRIによってすでに、なんどもなされている

のだそうです。 また
実際のところ、ファンクショナルMRIの開発は、機能局在の追求のためでなく、機能局在を作り上げる情報処理過程の解明のためにおこなわれたものなのである

とも書かれています。
そうなんだ。

2006年10月24日

今週の一押し 番外:"ミーナの行進"

ミーナの行進

行き帰りの電車で読みました。book-offで850円
家内には読み終わったら売り払えと命令されていますが取っておこうと思っています。

博士の愛した数式より断然好きです。
シュガータイムに匹敵。

2006年10月28日

今週の一押し42:"ダーウィンのミミズ、フロイトの悪夢"

ダーウィンのミミズ、フロイトの悪夢
Darwin's wormsの邦訳
科学的な問題を扱ったものではありません。
#プロローグ
#ダーウィンのミミズへのこだわり
#フロイトにとっての死
#エピローグ
の章立てで同じくらいの分量が割かれています。
本文の表現を借りれば
「自然を愛しひいては人間の本性を愛するために信ずべき事はなにか」
ということが書いてある本です。
苦しみを抱えて生きる意味を見いだした人が読むべき本と云うことになります。

冒頭で


科学は、科学が生み出すものは、「知る価値がある」という意味で重視去れ部べきであるとの前提に立っている。ところがこれこそが明らかに最大の問題である。

というマックス・ウェーバーの文章が引用されています。
ギョッ

2006年10月29日

今週の一押し 番外:"アメリカ臨床医物語"

科研費の作業も山を越え提出の目処が完全につきました。月曜は何時に終わるかわからん麻酔なので今日中に何とかしておく必要があったのですがよかった。

先週紹介した"脳のなかの水分子―意識が創られるとき"の作者中田先生の本
アメリカ臨床医物語―ジャングル病院での18年
米国の医学部、医学研究、医療事情の紹介は山ほどありますが、たいていはたいして役に立ちません。そのなかでこれは一風変わった本です。役に立つとかそういったことを超えている感じで、示唆にとんだ本と言えると思います。

中田先生は
臨床医と研究者と教育者を明確に区別しています。

アメリカでは臨床医は臨床医である。教授であろうが開業医であろうが、臨床医であることには変わりがない。大学の医者とは教育をやりたがる医者であり、教授とは学問上の肩書きである。
臨床医はどんなにすばらしい能力を持っていても、一般社会からはほめられることがない。映画とか漫画には「だれにでもできないことをやるスーパー医者」が登場するが医療とはそもそもそのようなものではない。中略 もちろん、どの世界でもスタンドプレーをする人間は多く、医学もしかりである。しかし、そんなおろかな素人さんを、ほんとうのプロたちは気にもしていない。
とも書いておられます。

スーパードクターが漫画の世界の存在であるというのは、とてもよくできた皮肉だと思います。漫画の主人公のような”スーパードクター”が手術室で”芸’をしているのをぼくも見たことがあるような気もします。

中田先生の意見で一番共感できたのは臨床医は臨床を研究者は研究をすべきと云うことです。たまたま臨床医が研究をすることがあっても研究が臨床を曲げてはならんと云うことはとても重要だと思います。
ぼくが”臨床研究”をしない理由もここにあります。

2006年11月03日

今週の一押し43:”樹をみつめて"

樹をみつめて

中井先生(Wikipedia参照)のこれはエッセイ集です。
比較的に高価なこういう本は何部くらい売れるものなのでしょうか。
固定読者が一定数いることは分かるのですが、それにどれくらい上乗せされるのかな。

2006年11月11日

今週の一押し44:"The ICU book"

The Icu Book
注文していた第三版が届きました。
1/3程読みました。旧版と厳密に較べたわけではないので違いは良くわかならかったのですが勉強になることには変わりがありません。
些末な蘊蓄や異論をうまく排しているところが優れていると思います。
多分翻訳が用意されているのでしょうが、英語も平易で翻訳を読む必要は無いと思うのですが..
勉強会の教材に適していると思います。

この本のサイトも用意されているようです。(参照)

2006年11月19日

今週の一押し45""シャドウ・ワーク"

シャドウ・ワーク―生活のあり方を問う
イヴァン・イリイチの"シャドウ・ワーク”が岩波書店から再出版されました。
大学に入学した年に読んでづっと手元に持っていたのですが両親の家に送り返してしまい今回新たに買いました。

イリイチの作った様々な造語の解説書のような本です。

シャドウ・エコノミー
シャドウ・ワーク
コモンズ
に加えて
「ヴァナキュラー」
「コンヴィヴィアル」
というような言葉に関して知ることができます。

イリイチは学校、医療などを特に取り上げ学校化によって学ぶことを忘れた社会、医療化によって自分で癒すことを忘れた社会などのような非自立化した社会が世の中を覆ってきているという分析を展開しています。
ウエストサイズがある数値より大きいと云うだけである症候群に分類され”治療’をする必要がある、また唾液中のある物質の濃度を測定されある数値より高いと云うだけでストレスを受けていると診断するとされる社会はどこかおかしいとは皆さんも感じるのではないのでしょうか。
イリイチは30年もまえからこんな主張をしていたのです。

家にいて夫や子供のために家事(イリイチのいうシャドウワークの一例です)に従事している女性があたかも社会から疎外された存在であると見なされるような社会-つまり影と見なされる社会-は現実に存在するわけですがあまり良くないと思います。

なんで”のだめ”が引っかかるんだろう。

2006年11月26日

今週の一押し46:"現代アメリカのキーワード"

現代アメリカのキーワード

二人の若い学者が編んだ現代アメリカを概観する小事典です。
政治的なスタンスも偏っているし取り上げられている項目も”網羅”しているという事にはなっていません。
例えば”21世紀の政治家”という項目で取り上げられている政治家は、バラク・オバマ、ヒラリー・ロダム・クリントン、ゴンドリーザ・ライス、アーノルド・シュワルツエネッガーといった具合です。
米国に興味を持っている人は読んでみて損はないと思います。

2006年12月03日

今週の一押し47:"背信の科学者"

背信の科学者たち
10年ほど前に出版されたものが最新のデータをつけてブルーバックスとして出ていました。
捏造問題には根深いものがあることが良く解ると思います。

2006年12月09日

今週の一押し48:"渋滞学”

渋滞学
文字通り’渋滞’に関する本ですが、本当は渋滞を説明できる理論の話です。
様々な世の中の渋滞を論じています。道路で見られる渋滞からInternet上の渋滞。またまたアリの渋滞からまで論じています。

自己駆動粒子(self-driven particle)とは、自分の意志を持って自発的に動く粒子のことで、道を歩く人間は典型例です。これを自己駆動粒子系の理論モデルとしてASEP(非対称単純排除過程、エイセップ)というモデル系を使って解いていくと渋滞がうまく理解できるという仕掛けになっています。道路公団の資料による実際の渋滞をよく説明できるのだそうだ。
ADPとして道路上の自動車を選べば渋滞学であるがADPとしていろんな素子を選ぶことにより、リボゾームでのタンパク質合成、神経細胞における分子モーター(キネシン)の運動などを解析していく様子も記述することができるそうです。

ロゲルギストという六人の物理学者の集団が共同で書いた’物理の散歩道’という本を高校生の時読んだことがあります。この中で確か本書と同じようなアプローチの解析を読んだことがあります。その意味ではとても懐かしかったが、多分ロゲルギストの議論より難しいと思う。

これで渋滞がわかったかというとぼくには自信はないのですが、これから渋滞に巻き込まれるたびにこの本の内容を思い出すだろうということは間違いないと思います。

著者は東大の先生でnetで研究成果も発表されています。西成総研

2006年12月21日

今週の一押し49:"ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない)"

ヒューマン2.0―web新時代の働き方(かもしれない)
今の時点で49番ということは何回か抜けた週があるということでしょうか。気にしないでください。

おもしろい題名の本です。
シリコンバレーで活躍中の著者が、シリコンバレーで働く人々を題材に新時代の働き方を描いた本。

日本の医者にも新しい働き方があるのか、ないのか。
働き方、キャリアの積み方には多様性が生まれそうでいてそうでもないような気配もあるというのが現状でしょうね。
一年本気で働いて次の一年は休むというか充電をするというような働き方ができるくらい収入があるとホントに多様になっていくと思います。

ScienceCareers.org | Life Scientists Report Rising Salaries and High Job Satisfaction: Austin: 3 November 2006
こんなレポートがあります。もらい過ぎと感じる人もいるだろうし、大したこと無いなと思う人もいると思います。

2006年12月28日

今週の一押し50:"獄中記"

獄中記

年末にすごい本が出たものである。
今年のノンフィクション部門の文句なしにNO1だと思います。

自壊する帝国
国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
をしのぐおもしろさ。

2006年12月29日

今年のベストスリー:小説

今年読んだ小説のベストスリーです。

ジェイン・オースティンの読書会


ミーナの行進


新リア王 上


新リア王は正確には昨年の発刊です。

2007年01月01日

今週の一押し2007-#1:"アメリカの眩暈"

アメリカの眩暈―フランス人哲学者が歩いた合衆国の光と陰

2007年01月02日

今週の一押し 番外:2006 best 10

このブログで昨年紹介した本で、みなさんが興味を持たれた 本best10です。
まだ読んでいない人はこの休み中にいかがでしょうか。
ぼくの頭の中のbest10とはすこし違いますけど。

意識の探求―神経科学からのアプローチ (上)

臨床医による臨床医のための本当はやさしい臨床統計―一流論文に使われる統計手法はこれだ!

アメリカ臨床医物語―ジャングル病院での18年

大学病院のウラは墓場―医学部が患者を殺す

誰もが納得!胸部X線写真の読み方

ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実

遺伝子神話の崩壊

麻酔科医が読んでためになる本 - 大学病院でなぜ心臓は止まったのか

脳のなかの水分子―意識が創られるとき

Complications: A Surgeon's Notes on an Imperfect Science

2006年新書best 3


昨年度新書ベストスリーです。
これはぼくのチョイス。
科学者という仕事―独創性はどのように生まれるかhypoxia research::blog: 今週の一押し19: 参照


現代アメリカのキーワード今週の一押し46:参照


生きていることの科学今週の一押し26:参照


2007年01月08日

今週の一押し2007-#2:"世界共和国へ"

世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて

昨年出た本。
掃除していたら出てきて再読しました。

2007年01月27日

今週の一押し2007-#5:""香水―ある人殺しの物語"

今日知ったのですが
香水―ある人殺しの物語
が映画になる(なった)そうです。
大学を出たばっかりの頃友人に勧められて読みました。
すごくおもしろいわけです。
皆さん是非読んでみてください。
映画も見るつもりです。

2007年02月03日

今週の一押し2007-#6:"大学病院改革”


大学病院革命

日本経済新聞の広告をみて注文していたのをやっと読み終わりました。
研究ネットでも紹介されていました(参照)。

誰を読者として想定しているかが微妙な本です-多分主たるターゲットは非医療中時差だと思います-が、医療関係者が読んでも十分に興味を持って読み進めることができますし手軽さなどからmust-readな本であると思います。
どう改革を進めるか、はたまた大学病院に問題があるかどうかは別として、論点は十分いくつも指摘されていると思います。

黒川先生とは一回お会いしたことがあります。その昔、京都で”医生物学フォーラム”と言う会を開いたときのspeakerとしてお招きしました。お話しは専門の腎臓に関わることでしたが、立て板に水を流すような鮮やかに話をすすめていく様子が印象的でした。”うまい”と共に内容がおもしろいと思ったトークの歴代確実に5位以内に入ると思います。さすが東大の先生は頭が良いなと思ったわけですが、その黒川先生が東大病院の批判をされています。病院の批判に加えて東大医学部の批判もされています。
しかし東大は黒川先生の様ないろんな観点から見て優秀な医師を歴史的には多数生み出してきているわけで東大のやり方は結局は正しいのではないかと言うような気もします。ぼくの印象では東大には、単に「頭のよい」という範疇を越えた優秀な頭脳をもっている人が大勢いるいると思います。
問題は東大のやり方を全国のすべての医学部、医科大学で行おうとしたことにあるのではないのでしょうか。

この「大学病院革命」を、誤解を恐れず一言で要約すれば、日本は医療システムを米国にならって改革しろと言うことだと思います。しかし保健制度やその他の経済システムに関する言及はこの本ではなされていません。
また本書で、医者という仕事を続けるために要求されるものに「知力」「技力」「体力」「人間愛」があると指摘されています。「人間愛」とはなにかというとオールマイティな人間力であると解説されています。また医者になる積極的な動機が必要であると力説されています。医者になるのに特別な動機など必要ないと思います。普通の人が普通に医者をしていて何か問題があるのでしょうか。

この本の視点では日本の医学部は米国流の医学校というか医学大学院的に変化していく必要があるいうことですが、本当にその必要があるのでしょうか。医者である以上、基礎的な知識が必要です。解剖学、病理学、生理学的な知識が身に付いていることは前提条件でしょう。しかしそれは教科書からでも学べることです。授業に出席しないと身に付かないと言うことでもないし、授業に出たから身に付くものでもありません。ペーパー試験でも十分に試すことができます。つまり臨床実習に進む前提のこのようなことは学校で学ぶ必要などありません。独学であろうが何であろうがこのような必要条件に関しては試験をして能力をためせばそれで必要用十分です。実験などが必要なら既存の医学部でお金を払ってスクーリングすれば良いのです。その上で、必要な病院実習に進む制度にしたらどうでしょうか。社会に出た人でも別の仕事をしながら医学知識を身に付け最後の実習を病院で二年ほど受け、国家試験に臨む。これで何か問題があるのでしょうか。従来の司法試験の受験資格に学歴は不問だったはずです。義務教育しか終えて無くとも試験を受け受験資格を取得することが可能だったはずです。法曹資格をしてそういった構造なのですから医師の資格でも同じだと思います。

この本には従来の黒川先生の発現から見て目新しものは含まれていないような気がしますが、一冊の本にこのような提言がまとまって出版されたことには意義があると思います。

本書で解説されているような病院での診療と研究室での研究が峻別されている米国の医学校のシステムは現在のぼくには魅力的な制度です。米国で研究を行った人は誰でもこの制度と日本の制度の落差にため息をつくことがあるでしょう。
大学病院とくに旧国立、公立大学病院で働く教員は、基礎系の医学研究科のみならず文化系の教員とおなじ給与体系なのに市中病院以上の臨床業務をこなした上で、教育の義務を負いさらに研究もするという日本のシステムはおかしいと思います。医師として働いた報酬は当然的に教員としての手当とは別に支払われるべきです。これだけはホントお願いしたいです。

最終章は、「ダメな医者」をつくっているのは”メディア”と”世間”であるという表題です。結局は、患者一人一人がもっと賢くなれと言っているのだと思います。当然のことです。
医者は自分が患者になる場合、どの病院に行くかというより誰に診てもらうかと言うことを重視します。いろんな分野で自分が信頼している医師のポートフォリオを持っていて、専門家のアドバイスはつべこべ言わず聴く。皆がこれが出来るなら黒川先生が本書で指摘する医療問題はほぼ解決すると思います。

最後に、東京でJohns Hopkins University Hospialと提携したメディカルセンターができるそうです。はっきりと言っておきますが、ぼくが胃ガンといわれ、全米NO.1 hospialといわれているJohns Hopkins University Hospialか京大病院の選択肢を提示されたら迷わず京大病院での手術を選びます。

2007年02月10日

今週の一押し2007-#7:"論文を書いてみよう!”

論文を書いてみよう!

2005年の11月に出版された本ですが、最近読んでみました。
読者としては、医学部の学生、研修医、医学系大学院生が想定されていると思います。
中でも、題名にあるとおりまた一番はじめに説明されているとおり、論文や報告にする内容は既にあるが論文の書き方が分からないとかどうもうまくかけないという人向けの本です。論文のネタをどうやって探すかという本ではありません。また諏訪先生の著作の多くで見られる特徴ですが特定のアプリケーションの解説書ではありません-これがこの本の強み。

この本の中核をなすのは第一章と第二章で紹介される”コンポーネント”という概念とそれを用いた論文執筆の手順です。特に第二章”コンポーネントを作る技術”のうち”文章はメモから書く”と”文章自体のテクニック”は方法論として習得したら役に立つと思います。
第一章と第二章を一度でも読んでいるのといないのでは症例報告一つ書くにしてにしてもだいぶ違うと思います。この部分に限ればいままで相当数の論文を書いてきた人にも一読の価値はあると思います。

”英文を書く”という章もありますが、有益な情報はありません。あくまでこの本は論文をどう書いていくかという事に主眼が向いています。


はじめての症例報告を書くはめになった先生方などには最適だし執筆を指導する先生もまずこの本読んでから書き始めてよと提示する目的には最適と思います。いままで相当数の論文を書いている先生でも時間があれば読んで損はないというような本です。

2007年02月27日

週の一押し2007-#9:"英語抄録・口頭発表・論文作成虎の巻―忙しい若手ドクターのために"

英語抄録・口頭発表・論文作成虎の巻―忙しい若手ドクターのために
読んでみました。
英語抄録
英語口頭発表
英語論文
の書くパートに分けて「虎の巻」が開陳されるという構成です。”英語での”という点に力点が置かれています。

著者の命名になる"Sushi theory"のnamingのセンスは置いておくとして”英語抄録”の章などは非常に参考になると断言できます。そばに信頼できる経験者がいる場合は良いとしてそうでない人にはとても良いアドバイスが詰まっていると思います。
本来、研究発表に英語、日本語など無いはずですが、初心者には英語のハードルは高いように見えるモノです。
この本を読んで一気に乗り越えてください。
ただし”忙しい若手ドクターのために” と言う副題は、タダ単に販売促進上の宣伝文句だと思います。

全体の内容はやはり
論文を書いてみよう!
に軍配が上がるかな。

2007年03月03日

今週の一押し2007-#10:"古武術介護入門"

古武術介護入門[DVD付](古の身体技法をヒントに新しい身体介助法を提案する)

医療がサイエンスがアートかという、不毛な議論があります。このような問題をことさら立てようとする人はサイエンスにもアートにもまともに取り組んだことがないのではないかと思えます。
今週の一押しは岡田 慎一郎の介護法に関する著書です。
週刊医学会新聞で以前連載されていました(連載は ここからリンクされています)。
原理というか考え方と実践に分けて丁寧に解説されていて大変タメになります。

神戸での集中治療学会ですが甲野善紀さんの講演は聴きに行きたかったな..

2007年03月10日

今週の一押し2007-#11:"血にコクリコの花咲けば―ある人生の記録"


血にコクリコの花咲けば―ある人生の記録


森嶋通夫さん(参照)という経済学者がいましたが、自伝を3冊出版しています。
本書と
智にはたらけば角が立つ―ある人生の記録
終わりよければすべてよし―ある人生の記録
です。
以前に紹介したことがあります。(参照

今日書店でこのうちの一冊が文庫本になっているのを発見しました。

森嶋氏のこの一連の自伝、本人はメモワールと位置づけていますが、は痛快な読後感を残します。

第一部ではそうでもないのですが、第二部、三部と進むに従って、京都大学、大阪大学の同僚、学会の重鎮までもめった切りにされています。
大体彼の批判の対象になるのはintegrityに欠ける人と彼が判断した人なのですが湯川秀樹夫妻までもが人間性の低さ故に俎上に載せられているという具合なのでなかなか読み応えがあるわけです。

今回を皮切りに残り二冊も文庫本化されるでしょうからこれは皆さん一度は読んだ方がいいですよ。

2007年03月18日

今週の一押し2007-#12:"サイエンス・ライティング入門"

サイエンス・ライティング入門
今回は
スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術
を紹介しようと思ったのですが一回飛ばしにします。

論文の書き方の指南本ではありません。
あくまでサイエンス・ライティングの入門書です。
主に日本経済新聞に発表された科学関係(生物学から物理学、工学)の記事を教材によりよいサイエンス・ライティングとはどういったものかを論じた本です。
今までに読んだことのないたぐいの本で非常に役に立つと思いました。
とくに学会の抄録などを書く場合に非常に参考になると思います。

論文を書いてみよう!
と比較しても、目指すものが違うので甲乙つけがたいとしかいいようがありません。

偶然図書館で見つけ借りたのですが、値段も良心的であり早速amazonで注文しました。
京大生協にはあると思いますが多分一般の書店には置いてないのでは。
出版社はナカニシ出版です。懐かしく思う人もたくさんいると思います。

2007年03月29日

今週の一押し2007-#13:"スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術"

スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術
ライフハック本の一冊です。
何冊かのハック本を読んだりnetをfollowしていますが、この本結構良くまとまっていて何か買うとしたらこの一冊でいいのではないかと思いました。

奇をてらったモノはなく実際に役立つというかおそらく皆さんも断片的には導入しているような技術が多いと思います。

第4章の04「キッチンタイマー」を使うやり方は早速導入。役立っています。

だれか研修医向けのハック本出せばいいのに。

2007年04月03日

今週の一押し2007-#14:"下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち"

土曜日の夕方から時間がとれて結構の量の読書をしました。

ハンニバル・ライジング 上巻 (1)ハンニバル・ライジング 下巻 (3)
とか
幻夜
も読んじゃいました。

その中の一冊。
下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

内田本の一冊ですが今までで一番売れているそうです。

内田先生が行った5時間程度の講演と質疑応答の内容が一冊の本になったという形式を取っています。
内田先生の他の著作の内容を含んでいますので熱心な内田先生の読者は、ある部分に既読感を覚えると思います。講演の内容を本にしたということで話し言葉で全編貫かれています。そのためとても読みやすくなっています。

章立てとしては
1. 学びからの逃走
2. リスク社会の弱者たち
3. 労働からの逃走
4. 質疑応答
となっています。

3. の労働からの逃走には考えされます。
最近のフリー麻酔科医への動向などもこのような論考が妥当するのではないかと思いました。つまり労働に対して等価の賃金を求めると云うことを追究していくと云うことが、フリーへと麻酔科医を動機付け、状況がそれを後押ししていると云うことです。”ニート”の若者が低い賃金労働を忌諱するのと同じ構造で医師が高い賃金労働を求める。善し悪しはぼくにはうまく判断できません。すでにこの歳になるとそんなに身軽に動けませんしね。

4. 質疑応答では師弟関係についての内田先生の持論も展開されています。


「師であることの条件」は「師を持っている」ことです。

なかなか良い言葉です。「反面教師」であっても「師」は持っていた方がいいと思います。
ぼくが頼りないのは「作戦」なのです。

2007年04月10日

今週の一押し2007-#15:"医療倫理"

医療倫理

これに関していろいろ書こうと思っていたのですが、やるこことが多すぎで無理です。

2007年04月21日

今週の一押し2007-#16:"人生の鍛錬"

人生の鍛錬―小林秀雄の言葉

昨日と今日、電車で読みました。
新潮社の小林秀雄チームが、彼の作品集から時系列に彼の文章の一部を抜粋したものです。
研修医の先生方には小林秀雄って誰?というひともいるかも知れません。以前話をしていたら「罪と罰」とか「カラマーゾフの兄弟」を読んだことがない先生がいましたから。学校の勉強ばかりしていたのでしょうか。

この本は新書で720円ですよ。安いです。是非買って読んでみてください。
興味を持てば、本体を読み進めたらいいと思います。
彼の作品集を全巻そろえても10万円しないわけです。毒に薬にもならない臨床マニュアル本を買うお金で悠々買えてしまうわけです。

「生活の智慧は、空想を好まず、真偽の判断を、事実に基づいて行うという点では、学問上の智慧とは同じものだが、常に行動の要求にも応じているから、刻々に変わる現実の条件に従い、遅疑を許さぬ、確実な判断を、絶えず更新しれいなければならない。実生活は私達に、そういう言わば行動するように考え、考えるように行動する智慧を要求して止まない。学問上の知識に、この生活の内に訓練されている智慧に直接働きかけ、これを指導するような力があるとは、先ず考えられないことだが、逆に、学問上の発見や発明は、この智慧が働かねばならぬ事は、充分に考えられることだと思われます。」

「確かなものは覚え込んだものにはない、強いられたものにある。」
なんて感じです。
こんな言葉を研修中の先生におくります。

2007年04月29日

今週の一押し2007-#17:"新たな疫病「医療過誤」"

新たな疫病「医療過誤」

大新聞の書評でも取り上げられていたようです。

医療におけるリスクマネージメントについての本です。

医療関係者ならこの本に書かれているすべてのことを見聞きしたことがあると思います。その意味では特別な事は書かれていないとも言えますが、これから例えば胆嚢摘出を大学病院で受けようという人が手に取り読んだとしたらかなり暗い気持ちになると思います。

誇張した記述は一切無いし、米国の医療に関して書かれた本であるからといって米国特有な医療制度に依存する特別な事は一切含まれていません。
第11章(見て、やって、教える)は教育病院での問題点が書かれています。まさに”自分のこと”が事細かく書かれていると感じました。とてもリアルというか、研修医教育の問題に日米の差は一切無いのだとなと思いました。

読んでみて損はありません。”解答”が得られるわけではありませんけど。

海街diary 1 (1)
書店で見かけて読みました。全然かわっていませんね。
吉田秋生って何歳くらいかなと思って調べると1956年生まれですよ。
吉祥天女が映画になり櫻の園もremakeだそうです。

2007年05月08日

今週の一押し2007-#18:"Better: A Surgeon's Notes on Performance"

Better: A Surgeon's Notes on Performance

Atul Gawande(参照)の新作です。
前作に引き続き医学医療は発展途上のいまだに不完全な科学であるという立場から医学をめぐる様々なトピックスを随筆風に語ったものです。
雑誌New Yorkerに最近発表されたモノを読むことができますのでこれらを読んでのち本の購入を考えたら良いと思います。
Complications: A Surgeon's Notes on an Imperfect Science

Annals of Medicine: The Way We Age Now: Reporting
Annals of Medicine: The Score: The New Yorker

医学部の学生や研修医の先生に読んでもらうのは適していると思います。
何人か参加してくれたら読書会をひらいてもいいのですが、みんな忙しいか。

邦訳は出版されていませんが、英語は平易で辞書なしでも読むことができると思います。

2007年05月22日

今週の一押し2007-#19:"新しい薬をどう創るか"

新しい薬をどう創るか―創薬研究の最前線

京都大学の薬学の先生方による講談社ブルーバックスです。
創薬について薬学の先生方がいろんな角度から説明しているわけです。
少なくともぼくにはまったく知らないことが書いてあるわけではないのですが、一読してみれば知らなかったことも当たり前にたくさん書かれていますしタメになります。

ちなみに鎮痛薬のこのことにも触れられていますがまったく意味のあることは書かれていませんでした。とにかく薬学の先生全員に割り振ったのではないかと云うくらい広い範囲をカバーしていると思いますがそれだけにどうでもいいようなことも書かれています。
玉石混淆。

10日ほど前に紀伊國屋で見かけたのですが、帯には
「新薬は、何万人もの医師に匹敵する!」
とありました。
ぼくらに恨みでもあるのでしょうか...

それは冗談としてもアトルバスタチンなど売り上げなんと130億ドル-一兆円超えています-
トヨタ自動車があれだけ売りまくって連結売り上げ21兆円だそうですから当たる薬のすごさがわかります。因みに任天堂は一兆円くらいの売り上げです。
製薬会社の研究者がなぜ高給を取っているのかわかるような気がします。
ぼくらとは商いのケタが違うのですよ。

薬学研究科から10年に一つこれクラスの薬ができたら京大も安泰のような。
がんばってください。

すごいなやっぱりアトルバスタチン

2007年06月03日

今週の一押し2007-#20:"データはウソをつく―科学的な社会調査の方法"

データはウソをつく―科学的な社会調査の方法

ちくまプリマ新書の一冊で読者としては一次的には高校生から大学生が想定されていると思いますが、大学院生が読んでも臨床医が読んでもとてもタメになる本です。
一口に言えば、統計でだまされない、ウソをつかないタメの基本的な心得を授けるのが目的の新書ですが、第一章の事実認定における社会科学と自然科学の違いとか第二章の「相関と因果」などは、初学者にもわかりやすい説明がされています。

とてもためになるのは第三章「実際にデータを解析してみよう」です。
カフェインの摂りすぎは心臓に悪いのか?という問いをデータを用い実際に解析してみるという試みが行われています。
リサーチリテラシーを身につけて統計で騙されないように、また知らず知らずのうちに誤った事実認定をしないようにというメッセージが込められているのですが、それよりも集めた統計的なデータを用いて実際に解析を行うことがいかに大変な大仕事であるかということがよく解ります。

高級な統計解析の教科書を読む前にこの定価760円の新書をまず読むことをお勧めします。

2007年06月18日

今週の一押し2007-#21:"生物と無生物のあいだ"

生物と無生物のあいだ


を読んでみました。
書評ではかなり好意的に紹介されています。ぼくの目にした書評は、いわゆる文系か非生物系の理系の評者によるものでした。
例えばこの本の帯には


福岡伸一さんほど生物のことを熟知し、文章がうまい人は希有である。サイエンスと私的な完成の幸福な結びつきが、生命の奇跡を照らし出す。
茂木健一郎
超微細な次元における生命のふるまいは、恐ろしいほどに、美しいほどに私たちの日々のふるまいに似ている。
内田樹

とあります。当たっていると思いますが、まったくこの本の学術的内容を反映していません。この業界の内情を知らない人がこの本を読むとこういった感想を持つのかも知れません。
普通の医者や生物学者がこの本を読んでこんな感想を持つことは無いと思います。

第8章から第11章はこの本の中核でそれ以外の章は、著者の経験に基づく“サイエンスと私的な完成の幸福な結びつき“が語られていきます。分子生物学の成立の時代背景なども盛り込まれていて読んでいて興味を引かれます。といっても普通にやっている分子生物学者が知らないようなレアなエピソードが語られているわけではありません。しかし語り口がよくとても良くできた物語を読んでいるような気になります。
この本の生物学的な内容は、生物とは動的平衡にある流れであるという主張です。福岡先生が発見したことではありません。これまた普通の生物学者なら最低一度は目にしたことがあるような学説です。福岡先生自身もいろんな場所でこの学説の紹介をしておられます。

しかし、740円以上の価値はありますし、いままで、動的平衡論について知らなかった人は、これを機会にこの考えを学ぶ良い機会です。わかりやすいです。読み物としてもたのしい。小ネタも仕入れることができると、お得な740円です。

生物学者が書いた新書のこの種の読み物では他に
がん遺伝子の発見―がん解明の同時代史
考える血管―細胞の相互作用から見た新しい血管像

などあります。
とくに児玉先生の本は、おもしろいですよ。

2007年06月30日

今週の一押し:2007-#22:"若き数学者への手紙"

若き数学者への手紙

原題は”Letters to a Young Mathematician (Art of Mentoring)”


ある数学者が、数学に興味を持った姪?の「メグ」にあてて書いた21通の手紙。イアン・スチュアートによるフィクションです。
メグが高校生、大学生、院生、ポスドク、助教授を経て数学者としての階段を上っていくメグにその時々に応じたアドバイスをしていくという内容になっています。
数学とはどんな学問なのか,学問の広がりを歴史的に解説したりが主体の手紙もあれば,数学とはあまり関連は無いが却って理解の学問に共通な研究者としてプロモートされていくプロセスや他の研究者との付き合いかたなどを指南する内容の書簡もあります。
語り口がすばらしく、どんどん読み進めることができます。


目次を列挙すると
まえがき

1通め なぜ数学をするのか
2通め わたしが弁護士になりそうになった顛末
3通め 数学は幅が広い
4通め すっかりできあがってしまっているのでは?
5通め 数学に囲まれて
6通め 数学者はどのように考えるか
7通め どうやって数学を学ぶか
8通め 証明の恐怖
9通め すべてコンピュータで解けるのでは?
10通め 数学における物語
11通め いくつかの問題を同時にあれこれいじる
12通め 超大作
13通め 解けない問題
14通め キャリアの梯子
15通め 純粋か応用か?
16通め どこからあんな突拍子もないアイデアがわくのか?
17通め 数学の教え方
18通め 数学者の世界について
19通め まぬけなことをしでかさないために
20通め 協力の喜びと危険と
21通め 神は数学者か
となります。

11通め いくつかの問題を同時にあれこれいじる
では
研究テーマの選び方について語られます。数学の世界でポアンカレ予想を解いたら一気に名声を博すだろうが、普通に考えて大学院生が取り組む問題ではないし、あまりの高い峰を攻めるあまり3年も4年も作業を続けても征服できない場合もある。


だから分別のある、妥協点として、大きな問題に取り組む時間は、使える時間の一部だけにしておいて、残りの時間で、それほど大きくはないが解くことができ価値もある問題に取り組むというのがいいと思う。

これは,生物学研究でも同じ。時間もお金も有限です。

14通め キャリアの梯子
では,学者として育っていく過程での指導教官や周りとの距離の取り方についてが語られる。
DXGS;doctor X's graduate student
PYR: promising young scientist
ER:excellent researcher
SS;senior scientist
GOP; grand old person
EG; emeritus guru
MG; ,marvelick guru
のような分類があるという。

16通め どこからあんな突拍子もないアイデアがわくのか?
では,研究における才能の問題が語られる


研究に必要なのは、同窓生にトンダヅの宇土、考える時間と、仕事ができる場所と、優れた図書館へのアクセスと、優れたコンピュータシステムへのアクセスと,コピー機と、高速インターネット接続。ただし,最初の一つだけは自前だ。

独創性は、持っているか、持っていないかのいずれかで、教え込めるものではない。独創性を育んだり、圧殺したりすることはできるが、「独創性に関する基礎講座」みたいなものが有って、その口座に出て、教科書を読み、試験に受かれば新しいアイデアを生み出せるようになる,というものではない。

なかなか耳の痛い話で。才能が無い者はそもそも学者をになるべきでなく、またそのような選別は大学院入学の時点でおこなうべきなのでしょう。

こんな感じで、理系の人ならどの分野の人が読んでもとってもためになる本です。

2007年07月07日

今週の一押し2007-#24;"世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく"

世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく

乗り越えるべき問題を抱えている人がいたとして、その問題をどう分析して解決にいたるまでを中学生に指南するという形式の本。
大人が読んでもかまいません。
著者は、Harvard Bussiness School(これですね。最近のキーワード)を出た人です。

概念的なことを”第一限”で、二限、三限で具体例をあげて説明していきます。
きのこちゃん、ナズビくん、ハンペンくんの三人組”きのこLovers"というバンドが、学校内で行うコンサートで200人の聴衆を感動されるまでの道筋が二限、三限はGCアニメ監督を目指すタロー君が、中古コンピュータを手に入れるまでの悪戦苦闘が描かれます。
自分のぶつかる壁の性質を分析し、乗り越えたり、壊したりして前に進んでいくことのできる子たちを問題解決キッズと名付け正しい方法論にのっとれば皆が問題解決キッズになれるというのが本書の主張です。それ対比されるだめな子たちは、
「どうせどうせ」子ちゃん
「評論家」くん
「気合いでゴー」くん
と呼ばれています。
方法論は、大人には特に新鮮には映りませんが、分析だけでなく解決を実行していくところまできちんと書いてあることが為になるかも。

要するに子供用の啓蒙書というよりビジネス書なのだと思います。

受験で成功するとか、そのたぐいには有効な方法論などだと思います。もちろん本書ではそのような卑近な例を挙げている訳ではありません。あくまでも「夢」に向かって頑張る子を目指そうという内容です。
入局者を来年度10人にするというような目標はこの本の方法論が適用できます。もっともこういったことは問題を分析していく過程で結構根本的な原因が浮かび上がり途中でプロジェクト中止とかなってしまう可能性が否定できません。

でも世の中にはしかしこのような戦略で解決できない問題もおおいですね。
芸術とかスポーツなどは持って生まれた才能が大きな比重を占めて問題の分析や努力では乗り越えられない。研究などでも、「一に才能、二に才能、三に才能、4に運」(by 寂聴)なのだとぼくは思っています。もっとも研究費を年に一千万円集めるというような目標の達成にはこの方法論は適用できると思いますが、それで何か?というのが研究ですよね。結局、臨床の片手間にするようなことではないのですよ多分。

2007年07月17日

今週の一押し2007 #25;"モオツァルト・無常という事"

少し前に、
人生の鍛錬―小林秀雄の言葉
を紹介しました (参照)。

以来このかた、家にあった小林秀雄本を掘り出してまた足りないものは買い足して、電車に乗っているとき、寝る前などなど三昧生活となっています。

今日は「真贋」を紹介しましょう。

小林秀雄全作品〈19〉真贋の帯の


三十代の中頃—、小林秀雄に狐がついた。美の狐だ。以来、陶器、土器、書画と、四十代の初めまで続いた眼の七転八倒を披露する「真贋」

と云う紹介文にあるとおり、真贋とは骨董品の「ホン物」と「ニセ物」のことです。

この文章で、小林秀雄は、修行を積めば目利きとなり「ホン物」と「ニセ物」をたやすく見分けられるようになるとか自分はその目利きであるとかを云っているのではないのです。
のっけから「ニセ物」など増える一方などということを云っている。そもそも商売人はにせ物などという言葉を使いたがらないのだと云い、その代わり「二番手」「ちと若い」「ショボたれている」とか「イケない」「ワルい」とか云っておくのだそうである。
ある骨董屋の主人が茶碗を見てどうしても欲しくなり三千円(今のお金で300万ほど)で落札したところ同業者にあれはいままで300円の値段もついたことがない品だといわれ落胆して一睡もできないでいると明け方突如、「茶碗はいいのだ、俺という人間にしんようがないのだ」という考えが浮かんで、やっとぐっすり眠られたというような逸話があって,何とその骨董屋の主人に信用がつくに従い、茶碗が美しくなっていくのだというような一読そんなバカなというような話が語られる。ここで「では美は信用であるか。そうである。純粋美とは譬喩である。」と言い切るのですが,骨董とはそんなものであるのだそうです。


これでぼくの目からウロコが落ちた。

これは研究と一緒ですよ。

結構な自信作だと思う論文でもいとも簡単に掲載を断られます。同じ雑誌にどう考えても不完全な論文があっさり載っているのを目の当たりにするとどういう訳なのかなと夜も眠れなくなるわけです。
要するに自分は、おもしろく,意義のある発見ととくだらないこと、凡庸な発見の見分けがつかないマヌケであるか、自分の発見を過不足無く表現する能力に欠けたバカ者であるのかと思いもう研究などやめたほうがいいのではとかウジウジと悩んだりを繰り返して訳ですが、要するに論文が採ってもらえないのは,研究が悪いのではなく自分に信用が無いからではないかと思えばいいのだということに気づいたという訳です。
他人の論文でも信じていると、”あれはウソだよ。もう誰も信じていない”とか訳知り顔で言われる事もあり海外の学会に行かず、極東の臨床研究室でやっているものにはそんなこと今更言われてもな,どうも変だと思っていたんだよとしかいいようのないこともあります。

壷を美術鑑賞するのでなく、骨董としていじるように研究もやっていかんといけないのだと妙に納得したのです。

研究も最近はずいぶん、偽物とか作り物が多くなり、自分の所属大学に取り上げろとか言われても頑として突っぱねている人もいるようですが、これで信用をなくしたら本当はおしまいなのでしょうね。

モオツァルト・無常という事

に収録されています。
「骨董」という文章もこれには入っていてまことに便利な文庫本です。

2007年07月24日

今週の一押し2007 #26;"Prodigal Summer"

梅雨も明けたし、最近あまり新刊本も読んでいないので、少し古い本を

Prodigal Summer: A Novel

これはすこし英語が難しいと思います。
けど楽しめる本です。枕頭の本の山を構成している一冊です。

米国には日本にはあまり紹介されていないよい作家がたくさんいます。

2007年07月25日

今週の一押し2007 #27;"Power, Sex, Suicide: Mitochondria and the Meaning of Life"

このブログは"低酸素研究者”のためのものなのだからという事で古いついでに

Power, Sex, Suicide: Mitochondria and the Meaning of Life
を紹介しておきます。
残念ながら日本語訳はありませんが、paperbackが出ていてお買い得です。

これを読むなら
ミトコンドリア・ミステリー―驚くべき細胞小器官の働き
を読んでも一緒ではないかという気もしましたが..

講談社のブルーバックスの一冊で名著だと思います。

2007年08月08日

今週の一押し2007 #28;"99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方"

99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方

2006年に出版された本です。
”科学”とはどんな学問なのかを考える手がかりになるよい入門書です。

高校生にも理解できる単純なことですが、大学院生でも完全利理解している人は少ないしおそらく大学教授でも理解してそう行動しているひとは少ない、と思います。
自分の信念を熱く語るのが科学者だと思っている人は意外と多いものです。自分も気をつけないとどこで人に嗤われているかわかりません。

以前に読んだのですが昨日iTunes版つまり朗読されたものが出ているのを知りました。
900円です。これはいいです。iPODに入れて、電車に乗っている間に一冊聴く(といっても二時間半)ことになります。朗読は言語明瞭で速度も適当、おそらくメモをとって聴き進むことも可能と思います。

iTunes Music Storeでポチッと買えます。本もいいけどこっちをお薦めします。

2007年08月16日

今週の一押し2007 #29;"身体をめぐるレッスン"

五山の送り火も終わりました。ちょっとは涼しくなってくれるとよいのですが,当分無理そうです。
以前住んでいた銀閣寺近くのアパートや今の職場からは普段でも「大」の字がよく見えるのですが、点火されるとさらに大きく見えて毎年びっくりします。
今年は家でNHKの中継を見ました。

身体をめぐるレッスン 3 (3)


岩波書店の”身体をめぐるレッスン”という4冊の単行本で構成される講座の一冊です。
波打つ身体(Material)という副題がついています。

図書館に目的の本を借りに出かけたのですが,既に借りられていて、入手に失敗。かわりに新規購入のコーナーでこの本を見つけました。

タイトルのまんまの様々な視点からの身体論集です。

「身体はなぜ抗うつ薬を食べ続けるのか」などの刺激的なタイトルの論文も収録されています。

紹介するのは「<動くこと>として<見ること>-身体化された看護実践の知」です。
医療現場では、医学的なマニュアル的な知識をもっていてもいざ患者を相手にしたときにその知識を有機的に生かして事に当たることができない場合があります。一年もすれば自ずと身に付いてくるというか会得できる実践的な経験もありますが,もっと長い期間をかけてでないと会得できない知恵のようなものもあります。こういったことは,教科書に記述するのが難しく,指導者から直接伝授される得るようなものでもない。だからといって、経験を積むことで習慣化される行為という訳でなく,自分自身が専門家になる過程で、会得し、意識的に過去の経験と今目の前にある実例との差を検出しながら日々更新していくようなものであると思います。
この一文では,看護師への聞き取りをまとめていくことで上にまとめたような問題を考えています。
機会があればみなが読んだらいいと思います。

初期研修というのも本来は、このような臨床知の会得法を学んでいくのが目標なのだと思います。

「複素的身体論ー無敵の探求」もなかなか考えることの多い論考です。無敵というのは医療の究極の目標だと思います。

2007年08月20日

今週の一押し:2007-#30:”知についての三つの対話”

知についての三つの対話 (ちくま学芸文庫 フ 27-1)

"Nature"に「科学者の敵」といわしめたポール・ファイヤアーベント(参照)の著作が文庫本になりました。
英語のタイトルは"Three dialoues on knowledge"です。プラトンの対話編を意識しているのだと思います。

知とは何か
科学とは何か
知恵とは何か
という三つの対話(という形式をとっているだけで実際の対話ではない,と思う)で構成されています。
古い順では、
科学とは何か(1976年)
知恵とは何か(1989年)
知とは何か(1990年)となっています。

二番目の対話「科学とはなにか」は取っ付きやすいと思います。既存の科学の批判が縦横無尽になされているからです。例えば占星術と癌治療は人間生活への影響を考えれば同列に論じられるのもだというような議論。いわゆる西欧医学が伝統医学といかに違わないかというような議論は、表面的には近代医学への批判としてよく目にするようなことなのだが,ファイヤアーベントの議論からは学ぶべきことが多い。30年前に書かれたということを意識する必要はまったくなく現代でも十分通用する知識、科学論だと思います。とくに「科学とはなにか」の後半部分は、現代医療論になっていてぼくには痛快に読むことができました。ぼくが内科の医者にならずに麻酔科医になった理由の一部もここら辺にあると自分で再認識しました。

プラトンといえば「テアイテトス」という対話編があり(「知とはなにか」は「テアイテトス」を題材にという副題がついています),「知識とは何か」にかんして論じられます。ぼくは岩波のプラトン全集で読みましたが、これまたいくつかの文庫本で出ているようです。
テアイテトス

こんな問題は紀元前から論じられているのですね。
単純に医学は科学だとか医学は科学でないというような議論をしても何の意味もない,というか何の足しにならん訳です。

2007年09月04日

今週の一押し:2007-#31:”ミトコンドリアのちから”

ミトコンドリアのちから (新潮文庫 せ 9-5)
読んでいて楽しい、ためになる、値段が安い(620円)の三拍子そろった好著。
第二章は「酸素との闘い、科学の闘い」でパスツール、ワールブルグ、クレブスが登場します。クエン酸回路発見の話は今回はじめて知りました。

ミトコンドリア・ミステリー―驚くべき細胞小器官の働き (ブルーバックス)
もよい本ですが、少し専門的です。
初心者は断然、
ミトコンドリアのちから

2007年09月24日

今週の一押し:2007-#32:”遺伝統計学入門”

遺伝統計学入門
とても為になりました。
入門書としてはよいのではと思いました。
ムック形式の書籍は多く出ているのですが実践?的すぎて逆にぼくの目的にはあいません。
この手の本の方がしっくりきました。

今週の一押し:2007-#33:”私家版・ユダヤ文化論”

私家版・ユダヤ文化論 (文春新書)
以前に立ち読みしたときは難しいという印象があり、読むのを控えていました。
今度読んでみた訳ですがやっぱり難しいと感じました。

この本は、ユダヤ人問題の入門書でもなくうんちく本ではさらになく頭の体操の本だという気がしました。
その意味では難しくても熟読玩味する価値は大いにあると思います。

楽園 上 (1)
読み出したら止まらなくなるだろうと読むのを控えていたのですが古本屋で一冊1000円で売っていたので購入(ちなみに図書館では116人待ち)。土曜の夜から日曜日の午前中で読みました。面白いに決まっていているので今更言うことはありません。模倣犯を読んでいなくとも問題なくこの本を楽しめると思います。

2007年10月11日

今週の一押し:2007-#34:”スタバではグランデを買え! ”

どうも風邪を引いたようです。朝から熱っぽく麻酔中も鼻水ずるずるでした。タイレノール飲んだのですが解熱しないのでボルタレン25mg使ったらすっきりいきました。明日一日保つかが課題ですが、そうしても今週中にすませたい作業があるのです。

さて
スタバではグランデを買え! ―価格と生活の経済学

そここで紹介されている一種のベストセラーかもしれません。
経済学を実際の経済に応用した本です。

まずこの本の広告を日本経済新聞で見ました。面白いタイトルだなと思いましたが読もうとは思いませんでした。そのうちいくつかのブログで紹介されているのをみて、読みたいと思いましたが自分で購入して読もうとまでは考えませんでした。図書館に入れば読んできたいなと思った程度でした。ある日、買って読もうと思い立ちアマゾンで注文したのですが品切れで5日待ちの状態で一回は注文をキャンセルして自宅最寄り駅のbook1stに出かけたのですが品切れ。まあいいかと思っていたところアマゾンで”在庫”になっていたので即注文しました。(今現在アマゾンでは品切れ。なんと1900円まで値段がつり上がっています)
ぼくのこの本を巡る行動を経済学的に分析したような本です。

asahi.com:研修医に月20万円支給 旭川医大 地方病院勤務が条件 - 暮らし
こんな試みはうまくいかんだろうという事もよく解ると思います。

第7章 経済格差が、現実にはなかなか是正できないのはなぜか? 所得よりも資産の格差のほうが大きな問題である
第8章 子供の医療費の無料化は、本当に子育て支援になるか? 安易に政府に頼る国民は、結局は大きなツケを負わされる
なども読んだらなるほどと思いますが、よくよく考えるとそれは無いだろうという自分独自の考えも生まれてきます。

以前、医学部の一年生が手術室に見学に来たときの話を書きました(early exposureで (hypoxia research::blog)
実はその時は書かなかった事があります。学生に大学がいかにとてつもなく安い給料で医者をつかっているのかを愚痴りました。学生の反応はストレートで、”ではどうして先生はこんな職場で働き続けているのですか?”というものでした。大人には大人の事情があるのだよというのでは答えになりませんよね。でもこの本の論理を使うと結構うまく事情が説明できるかもしれません。
電車に二時間乗っている時間がある人は読んだらいいと思います。

2007年10月23日

今週の一押し:2007-#35:"背信の科学者たち”



かなり前に読んだ事のある本が講談社のブルーバックスとして再登場。1988年版をごく部分的に省いてその代わりここ数年の不正事件リストを付録として収録しています。-”麻酔”誌での不正も収録されています-

図書館で見かけて再読してみました。

プトレマイオスからガリレオ、ニュートンを経てミリカンまで名だたる科学者が真理に対する背信者としてあげられています。


なんで不正をするのかはここの事例でさまざまな訳ですが、何か対価が与えられるからこそこんなことが起こるのだという事だけは間違えないと思います。どんな不正でもその人に取っては何らかの意味があるのでしょう。


お金とか名誉とかの場合はある意味わかりやすい。ある期間は、マスコミに取り上げられいい気分になれるかもしれませんが、目立てば目立つほど不正も露見し易い。

でも他人にはわからないもののために誰かが不正をするとすれば、不正は永遠になくなりませんよね。というか不正かどうかも永遠にわからない。-"麻酔”誌での不正など普通に考えたら理由はわかりませんよ-


とにかく安いし一回は読んでみて損は無いと思います。

2007年11月24日

今週の一押し:2007-#37"Musicophilia"

Musicophilia: Tales of Music and the Brain

オリバー・サックス(参照)の新作です。
今回は「音楽」にまつわる神経現象を例によって豊富なエピソードを交えて解説しています。
実は、まだPart I とPart IVしか読んでいません。
全部読んだらまた書き足します。

2007年12月01日

今週の一押し:2007-#38:死因不明社会

死因不明社会 (ブルーバックス 1578)

柏から銚子までの列車の中で読みました。

チーム・バチスタの栄光
の海堂 尊氏-ペンネームですが,ググれば本人がどなたかは簡単にわかると思います-のブルーバックス。
Autopsy Imaging(参照)の啓蒙書です。
多くは書きませんが,臨床医なら一度は読むべき本だと思いました。
力が入りすぎていて海堂氏の議論についていけない部分もありますが、"AI"を核とした枠組みが医療において重要性を増していく可能性は大きいと思います。

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2007年12月09日

今週の一押し:2007-#39"うつ病―まだ語られていない真実"

うつ病―まだ語られていない真実 (ちくま新書 690)

副題のーまだ語られていない真実ーが思わせぶりな本書ですが、正統なうつ病に関する解説書です。
うつ病に関する本は、素人相手の物も含めてかなり読みましたが、本書は特に薬剤治療に関して詳しい解説書でかなり参考になりました。

この本を通じて、また特に第四章ーうつ病は増えているー,第五章ー抗うつ薬は危険か?ーで繰り返し述べられていることは、ちまたにあふれるうつ病に関する書籍やインターネット上の情報にはかなり”いいかげんな”物が多く解釈には十分留意する必要があるということです。

著者によれば、精神科医が書いた物でも、心理学科や保険診療センター所属の教員の書いた文献は,”実際に役立つ知識は得られない場合が多い”し,大学病院の精神科の教授が書いた物でも、”大学病院の臨床レベルが高くない事実”があるので全面的に信用するのは危険だと述べています。名指しで批判されている人もいます。
著者も大学病院の精神科所属の医師なのですが、自分は違うということなのだと思います。実際書かれていることは十分説得力があり、医者であるぼくが読んでもいかがわしく感じる部分はありませんでした。

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