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2005年01月06日

Only oneはむずかしい

日本生化学学会の機関誌はズバリ"生化学”ですが、vol.76, NO.12号の巻頭随筆で京都大学の中西重忠先生が興味深いことを書いておられます。ネットでは読めないと思います。近くにいる人に読ませてもらってください。

研究の世界ではよくNo 1よりonly oneになれと言われることが多いのですが、only oneになるのはとても難しいので若者はそんなことにはとらわれずとにかくがんばれという内容の文章です。

only oneになるのが困難な理由を4つにまとめておられますがぼくは第四の理由に興味を持ちました。
ここだけ引用します


研究成果の情報が迅速かつ容易に得られる現在、研究成果の独自性が高かければ高い程、瞬く間に多くの研究者が参入し、最初に提示した研究者が明らかでなくなる場合も多い。このためには、単に新しい局面を提示するだけでなく、自らがその重要さを継続して提示していく必要があり、成果を出す以前よりも大きな努力と忍耐を必要とする。

NMDA受容体の遺伝子単離は、世界に先駆けて中西先生の研究室で行われた。当時麻酔科から研究に行っていたぼくの友人も論文の共著者として名前を連ねています。
この領域をめぐる学問の発達は爆発的で、記憶における役割の他、麻酔科学の領域でも麻酔の機序とか虚血再灌流傷害とかへの関わりを考えればこの遺伝子単離がきっかけとなっている生物学的、医学的な領域というのは枚挙のいとまもない。しかし、現在において中西先生の研究室が世界的にNO 1でもないし、これだけ領域が広がった以上only oneとも言えない。
同じことがopioid受容体の単離にも言えるかも知れません。muとkappa受容体が世界で初めて単離された論文はPrimary structures and expression from cDNAs of rat opioid receptor delta- and mu-subtypes.

ですが、麻薬の受容体という極度に重要な受容体の単離で会ったが故に一度にあまりにも多くの人が参入し、誰がはじめかという側面は現在ではあまり重視されていません。
もともと分子生物学とか細胞生物学は、誰にもまねの出来ないということをはらんだものではありません。NMDAの単離にしても実際の手技は普通の分子生物学の実験施設を持つ研究室ならどこでも出来るようなものです。だがらこそ本当は、確固とした意志と、確実な方法論とそれを実現する人間がそろわないと成功しないのですが、昨今の”役に立つ研究重視”の風潮のかなではなかなか評価が難しくなるという側面があると思います。

投稿者 hif1 : 2005年01月06日 11:06

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