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今週の一押し2007-#21:"生物と無生物のあいだ"

生物と無生物のあいだ


を読んでみました。
書評ではかなり好意的に紹介されています。ぼくの目にした書評は、いわゆる文系か非生物系の理系の評者によるものでした。
例えばこの本の帯には


福岡伸一さんほど生物のことを熟知し、文章がうまい人は希有である。サイエンスと私的な完成の幸福な結びつきが、生命の奇跡を照らし出す。
茂木健一郎
超微細な次元における生命のふるまいは、恐ろしいほどに、美しいほどに私たちの日々のふるまいに似ている。
内田樹

とあります。当たっていると思いますが、まったくこの本の学術的内容を反映していません。この業界の内情を知らない人がこの本を読むとこういった感想を持つのかも知れません。
普通の医者や生物学者がこの本を読んでこんな感想を持つことは無いと思います。

第8章から第11章はこの本の中核でそれ以外の章は、著者の経験に基づく“サイエンスと私的な完成の幸福な結びつき“が語られていきます。分子生物学の成立の時代背景なども盛り込まれていて読んでいて興味を引かれます。といっても普通にやっている分子生物学者が知らないようなレアなエピソードが語られているわけではありません。しかし語り口がよくとても良くできた物語を読んでいるような気になります。
この本の生物学的な内容は、生物とは動的平衡にある流れであるという主張です。福岡先生が発見したことではありません。これまた普通の生物学者なら最低一度は目にしたことがあるような学説です。福岡先生自身もいろんな場所でこの学説の紹介をしておられます。

しかし、740円以上の価値はありますし、いままで、動的平衡論について知らなかった人は、これを機会にこの考えを学ぶ良い機会です。わかりやすいです。読み物としてもたのしい。小ネタも仕入れることができると、お得な740円です。

生物学者が書いた新書のこの種の読み物では他に
がん遺伝子の発見―がん解明の同時代史
考える血管―細胞の相互作用から見た新しい血管像

などあります。
とくに児玉先生の本は、おもしろいですよ。

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2007年06月18日 21:50に投稿されたエントリのページです。

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