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今週の一押し2007-#6:"大学病院改革”


大学病院革命

日本経済新聞の広告をみて注文していたのをやっと読み終わりました。
研究ネットでも紹介されていました(参照)。

誰を読者として想定しているかが微妙な本です-多分主たるターゲットは非医療中時差だと思います-が、医療関係者が読んでも十分に興味を持って読み進めることができますし手軽さなどからmust-readな本であると思います。
どう改革を進めるか、はたまた大学病院に問題があるかどうかは別として、論点は十分いくつも指摘されていると思います。

黒川先生とは一回お会いしたことがあります。その昔、京都で”医生物学フォーラム”と言う会を開いたときのspeakerとしてお招きしました。お話しは専門の腎臓に関わることでしたが、立て板に水を流すような鮮やかに話をすすめていく様子が印象的でした。”うまい”と共に内容がおもしろいと思ったトークの歴代確実に5位以内に入ると思います。さすが東大の先生は頭が良いなと思ったわけですが、その黒川先生が東大病院の批判をされています。病院の批判に加えて東大医学部の批判もされています。
しかし東大は黒川先生の様ないろんな観点から見て優秀な医師を歴史的には多数生み出してきているわけで東大のやり方は結局は正しいのではないかと言うような気もします。ぼくの印象では東大には、単に「頭のよい」という範疇を越えた優秀な頭脳をもっている人が大勢いるいると思います。
問題は東大のやり方を全国のすべての医学部、医科大学で行おうとしたことにあるのではないのでしょうか。

この「大学病院革命」を、誤解を恐れず一言で要約すれば、日本は医療システムを米国にならって改革しろと言うことだと思います。しかし保健制度やその他の経済システムに関する言及はこの本ではなされていません。
また本書で、医者という仕事を続けるために要求されるものに「知力」「技力」「体力」「人間愛」があると指摘されています。「人間愛」とはなにかというとオールマイティな人間力であると解説されています。また医者になる積極的な動機が必要であると力説されています。医者になるのに特別な動機など必要ないと思います。普通の人が普通に医者をしていて何か問題があるのでしょうか。

この本の視点では日本の医学部は米国流の医学校というか医学大学院的に変化していく必要があるいうことですが、本当にその必要があるのでしょうか。医者である以上、基礎的な知識が必要です。解剖学、病理学、生理学的な知識が身に付いていることは前提条件でしょう。しかしそれは教科書からでも学べることです。授業に出席しないと身に付かないと言うことでもないし、授業に出たから身に付くものでもありません。ペーパー試験でも十分に試すことができます。つまり臨床実習に進む前提のこのようなことは学校で学ぶ必要などありません。独学であろうが何であろうがこのような必要条件に関しては試験をして能力をためせばそれで必要用十分です。実験などが必要なら既存の医学部でお金を払ってスクーリングすれば良いのです。その上で、必要な病院実習に進む制度にしたらどうでしょうか。社会に出た人でも別の仕事をしながら医学知識を身に付け最後の実習を病院で二年ほど受け、国家試験に臨む。これで何か問題があるのでしょうか。従来の司法試験の受験資格に学歴は不問だったはずです。義務教育しか終えて無くとも試験を受け受験資格を取得することが可能だったはずです。法曹資格をしてそういった構造なのですから医師の資格でも同じだと思います。

この本には従来の黒川先生の発現から見て目新しものは含まれていないような気がしますが、一冊の本にこのような提言がまとまって出版されたことには意義があると思います。

本書で解説されているような病院での診療と研究室での研究が峻別されている米国の医学校のシステムは現在のぼくには魅力的な制度です。米国で研究を行った人は誰でもこの制度と日本の制度の落差にため息をつくことがあるでしょう。
大学病院とくに旧国立、公立大学病院で働く教員は、基礎系の医学研究科のみならず文化系の教員とおなじ給与体系なのに市中病院以上の臨床業務をこなした上で、教育の義務を負いさらに研究もするという日本のシステムはおかしいと思います。医師として働いた報酬は当然的に教員としての手当とは別に支払われるべきです。これだけはホントお願いしたいです。

最終章は、「ダメな医者」をつくっているのは”メディア”と”世間”であるという表題です。結局は、患者一人一人がもっと賢くなれと言っているのだと思います。当然のことです。
医者は自分が患者になる場合、どの病院に行くかというより誰に診てもらうかと言うことを重視します。いろんな分野で自分が信頼している医師のポートフォリオを持っていて、専門家のアドバイスはつべこべ言わず聴く。皆がこれが出来るなら黒川先生が本書で指摘する医療問題はほぼ解決すると思います。

最後に、東京でJohns Hopkins University Hospialと提携したメディカルセンターができるそうです。はっきりと言っておきますが、ぼくが胃ガンといわれ、全米NO.1 hospialといわれているJohns Hopkins University Hospialか京大病院の選択肢を提示されたら迷わず京大病院での手術を選びます。

コメント (1)

面白そうな本ですね!
黒川先生は有名な方ですが私の印象では非常にアメリカかぶれというか、アメリカ万歳!な方ですよね。そして、とてもとても優秀な方という印象があります。
日本の医学部がアメリカ並のシステムを機能させるには相当な投資が必要な気がします。だから、アメリカの有名な医学部はたいてい私大だし、入学金も目が飛び出るほど高いですよね。それを表面上OSCEだマッチングだってまねっこして本当にそのレベルに到達するのでしょうか?東大・京大はいいかもしれませんが、うちのような地方大学医学部は東大・医科歯科のおこぼれさんしかいらっしゃいません。自分のところの卒業生に逃げられることにも問題がありますけどね。

それにしても、いつも先生のブログを読んで感動しちゃうのは、先生の「愛校心」です。私は胃がんになったらどこでオペしてもらおうかなあ・・・・

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2007年02月03日 15:00に投稿されたエントリのページです。

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